はてなダイアリーの一冊百選

金持ち父さん貧乏父さん

金持ち父さん貧乏父さん

自分の思想形成上大きな影響を与えた本はいくつかありますが、これまでの人生中でただ一冊だけ「もっと早く読みたかった」と思った本があるので、それを薦めることにします。その本は、「金持ち父さん 貧乏父さん」です。ベストセラーですので、すでに読まれた人も多いかと思います。一方、タイトルがあれなので避けている方とかがおられるかも知れません。案外ベストセラーだから嫌って人もいるかも。まあ、ちょっとでもそうした人が読んでみようかな、あるいは自分ではなくても子供の選択肢を増やすために読ませてみようかと思っていただければいいという目標で紹介してみようと思います。

まず「もっと早く読みたかった」と思った理由を述べておきましょう。まず、この本がどういう本であるかを示し、次にそれが私の性格・思想と合った理由について説明したいと思います。

この本は「ファイナンシャルリテラシー」つまりお金に関する(財務的な)基礎知識および基礎技術について、主にそれを学ぶ理由とある程度の具体的な内容について説明しています。本書でも言っているように、お金に関する基礎知識と基礎技術は学校では(あるいは家庭でも)教えてくれません。にも関わらず、一歩社会に出ればお金のやり取りで成り立っており、隙あらばお金を奪い取ろうとする輩には事欠きません。我々は獣の待つ森の中に何の防備も武器もなく裸で放り出されているようなものです。この本は少なくとも、どのような準備をすれば良いか、ということを示してくれると考えます。

私は子供の頃から、配偶者に経済的に依存せず一人でも独立して生きていけるよう手に職をつけたい、と思っていました。こう考えるようになったのは理由があります。私には父方の祖母がいて、母が働きに出ていた幼少期は彼女に育てられたのですが、彼女は常に「結婚相手の失敗」と「自分の苦労」を語っていました。大まかには、次のような話です。

「大企業に勤めていた男性」を「安定した生活」のために選択し結婚した。しかし彼はあるとき独立してしまい、「安定した生活」はあえなく崩れてしまった。彼女は乳飲み子を抱え、貧乏な中海まで塩分を求めて行って漬物を作るなど並々ならぬ苦労をした。

というような内容を、何度も何度も語っていました。その非難は配偶者が「生活の安定」を破棄したことに集中していました。今から思えば、勝手な配偶者にあたってしまったが苦労の末5人の子供を立派に育て上げた、ということをほめるべきだったのでしょう。しかし、私はそうしたことには思い至らず、「なるほど配偶者に生活を依存しているとろくなことにならないのだな」とだけ思っていました。そして、ドメスティックバイオレンスなどの話を聞くたびにその考えを強めていきました。

しかし、父親が病気で倒れ他界した頃、たとえ独立を夢見ていたとしても私はくそ生意気なくせに完全に世間知らずの20歳の小娘に過ぎませんでした。経済的な自立をするための知識も技能もなく、ただ親の脛をかじって大学へ通っていました。そして、その時期にあまりにも自分の甘ちゃん度を思い知らされることがあり、自殺も結構真面目に検討してみたことがあります。不穏な言葉ですみませんが、至極真剣に検討してみた結果、本当には死にたくないと思っていることがわかったのでそれ以後再検討はしてません。将来的にもしないでしょう。

なんにしろ、「経済的な自立」なくしては「自己の主張」などできるわけがない、と身に沁みて思い知ったわけです。にも関わらず、それから数年の間博士課程を修了し職に就くまで、何の稼ぎもなかったので自尊心的には最低状態でした。たぶん、現在の配偶者と出会い、「学費は投資であり、自分が定年後は養ってもらうことで返してもらう」と言ってもらわなかったら現在の職は早々にあきらめていたことでしょう。まあ、それ以外でもめげそうになりましたがそれは別の話。

そして現職についてしばらく経った頃に、人に勧められて「金持ち父さん 貧乏父さん」をはじめて読みました。読んで、もっと早く読んでいれば効率的に独立することができたのに、と思いました。そして同時に、ああ今の状態は決してゴールではないのだ、とも思ったのでした。

勤め人である限り、雇用者の意向に逆らうことはできません。他の職ではもっとシビアでしょう。いきなりクビになったり、倒産する危険すら常にあります。おりしも社会は不況で、倒産だの解雇だのといったニュースが日々流れていました。大学と言えば独立行政法人化は避けられない流れでした。職場の安定性が見込めないような時代において、自分を含めて社会人のほとんどがそれに対して対処する術を知らないことは漠然と感じていました。

対処する術をしらないがゆえに、それを振りかざされると逆らうことが難しい、ということも問題だと思っていました。時折隠蔽などによって引き起こされる企業による被害が報道されます。その行為自体は憎むべきものであり、被害は早急に償われなければなりません。また、そのようなことは繰り返されてはいけません。しかしいざ、加担した人の立場に実際になったとき、果たして自分は断固として拒否できるのでしょうか。私には正直自信がありません。明確な被害者がいないようなささいな害(単に無駄であるとか)であればなおさらでしょう。

現職は他の職に比べれば、正直「自己を曲げなければならない」ことのほとんどない非常に恵まれた環境です。しかし、社会的には少子化が進み、国の財政は逼迫し、大学卒業者の質は疑問視されています。個人的には、遅かれ早かれ現存する大学の半分くらいは解体され何らかの形で再編成されるのではないかと思っています。不良教員の自分がそうした中で生き残れるかについてはまったく自信がありません。

また、倒産やクビを逃れてなんとか食いつないだとして、やがて老い働くことができなくなったとき、年金制度は機能しているのかという疑問があります。私は、おそらく破綻し機能していないだろうと思っています。ファイナンシャルリテラシーを持っていない人々が運用し続ける限り、資産が減ることはあっても増えることはないと思うからです。そして、このまま少子化高齢化が進めば労働者人口は高齢者人口を支えきれません。まあ、あんまり期待しないほうがいいと思ってます。

昔ある新聞で、老夫婦が生活保護も受けずに二人で飢えて死んだという記事を読んだときには、やりきれなさに涙しました。人間は尊厳を持って生き、そして尊厳を持って死ぬべきだと思います。そしてそのためには、「経済的な自立」が不可欠だと思います。経済的な自立のためには、ファイナンシャルリテラシー、つまりお金に関する基礎知識および基礎技能が不可欠です。四則演算も読み書きもできないのに、大学入試を受けるわけにはいかないように、お金がどのように機能しているのかを知ることなしに、将来に向けた投資をしていくわけにはいきません。無残に試験に落ちるのと同様に、鴨が来たと喜ぶ上級者に虎の子の財産を奪われてしまうでしょう。

本書の優れたところは、純粋に成長物語としても読み応えがあるというところです。人間というのは、論理的に説かれても、情緒的に訴えられなければ記憶しない生き物です。本書では、著者ロバート・キヨサキ氏が幼いときに友達の父親(金持ち父さん)と出会い、実の父親(貧乏父さん)との価値観のギャップに悩みながらも、金持ち父さんの価値観を選び取るに至るまでの物語が語られています。このシリーズは以降も出ていますが、正直物語として一番面白いのは本書だけだと思います。2巻は補足として概念が追加されるので読んでもいいかとは思いますが、後は個人的にはお勧めしません。

物語の中で語られるファイナンシャルリテラシーの基礎知識は、以下のようなことです。もしかすると抜けてることがあるかもしれません。

  • 何が資産で何が負債であるのか
    • 自分の住む家は資産ではなく負債である(ローンがある場合)
    • 良い借金と悪い借金の違い
  • 収入と支出、資産と負債の関係(PL/BS、財務諸表の見方)
    • キャッシュフロー(お金の流れ)の違いが貧乏人と金持ちを分ける
    • ラットレースとファーストトラック
    • 収入を資産に変える戦略(ただし抽象的かつ日本には合わないかも)
  • リベレッジ(てこの原理)
    • てこの原理を使えば小さな人間が巨人を倒すことができる(ゴリアテの話)
    • 資産の購入にはリベレッジを効果的に利用する必要がある

こうした知識自体は他の本にも書いてあることかも知れませんが、私には結構新鮮でした。特に持ち家が負債だというのには、「やっぱりそうか」と思いました。負債は言い過ぎぎみですが、本書で言うところの資産(ポケットにお金を入れてくれるもの)でないことは確かだと思います。あえていうなら必要経費でしょうか。このへんで拒否反応を示す人も多いかもしれません。

なお、本書では詳細なノウハウを説明してはいません。目的を達成するのに必要な羅針盤とその見方を示しているだけです。そういう意味では、手っ取り早く儲けたいという人が読んでも嬉しくないと思います。しかし、目的と羅針盤があれば、後は道を見つけるだけではあります。そして道は人や状況によって違うので自分でがんばるしかないとも言えるでしょう。もちろんメンター(指導者)を得るという手もあるみたいですが。

また、本書を読んだだけでは羅針盤についての「知識」が得られるに過ぎないません。本書を読んで納得された方には、個人的には「キャッシュフローゲーム」をして羅針盤の「使い方」を体得することをお勧めします。私も正直やってみるまで、自分がどれほど従来の習慣に縛られているかに気がつきませんでした。しかも、しばらくしていないと感覚を忘れてしまいます。今は「経営理念の研究会」などという会を開いてもらって、そこで時々中小企業経営者の方々とゲームをしています。

ロバート・キヨサキ氏の価値観すべてに同意できるわけではありません。リベレッジには少々批判的です。キャッシュフローゲームをやっていても、ファーストトラック(お金持ちコース)に行く喜びというのは大して感じません。ラットレース(貧乏人コース)より単調で面白味がないように感じるのと、目的の例に挙げられている夢がアメリカ人好み過ぎるせいかもしれません。無駄遣いカードに書かれているささやかな喜びも愛すべきものだと思います。ただささやかな喜びを大事にする生き方を選ぶためには、でもやはり、ファイナンシャルリテラシーは必要だと思います。

ということで、自分の人生を出来る限りコントロールしておくために、一度本書を読まれてみることをお勧めします。

次の担当者は、id:satoshisさんです。よろしくお願いします。